ドグラ・マグラ（ハヤカワ・ミステリ）

夢野久作は、いわゆる変格派にすぐれた作家の多かった過去の日本の探偵小説界でも、とくに風変わりな作家であった。この作家の体内には、九州男児の豪快な血と、あやかしの詩人の血が、流れていた。『犬神博士』などのかたやぶりな大衆小説には九州男児の奔放さが、一方で「あやかしの鼓」などの幻想味溢れる短篇には詩人の気質が、それぞれ発揮されている。本書は、夢野久作のその二つの血の流れが、頂点において結びついた代表作である。発表直後より世間を震撼させ、今なお奇書中の奇書として高い評価と特異な人気を誇っている。日本のみにとどまらず、広く世界の探偵小説を見渡しても、これだけ小説作法の常識をはずれた大胆不敵な作品はまずあるまい。本書を一読後、この奇怪な作品世界に毒されて奇行に走られぬよう、読者は充分に御注意いただきたい。